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医療につながりにくい在留外国人の実態
荻上チキさん(以下、荻上): 北関東医療相談会から今日は長澤さんと大澤さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。早速ですが、北関東医療相談会はどういった活動をなさっているのでしょうか。
長澤正隆さん(以下、長澤):外国人で在留資格のない人たちに、健康相談会を中心とした健康支援をする団体として立ち上げました。
荻上:活動のきっかけは、どういったものだったんでしょうか。
長澤:そうですね。1985年前後に外国人が日本に大変多く入ってきた時期あり、その頃から活動しています。その頃、あるフィリピン人男性が病院に入院されてがんの手術を受けるいうので、補償人になってほしいと相談があったんです。もちろんOKして、手術が終わってから3日経ってお見舞いにいったところいったところ、亡くなっていたんです。
適切な時期に健康診断が受けられていれば、こういうことはなかったんじゃないかと思い、何かいい方法はないのかということを考えました。そのよう中、「市民でつくる健康診断会というのがあるよ」という話を聞いて、いろいろと教えてもらいながら、健康診断会を続けてきました。
荻上:元々在留資格のない方には医療提供の機会というのは乏しかったんでしょうか?
長澤:「在留資格がない」と働くことができません。そして、社会資源を活用した支援を全く受けられないということになりますから、健康保険も何もないんですね。だからそういった意味で大変です。
コロナで増えた在留資格のない外国人、そして困窮する支え手
荻上:大澤さんにお伺いします。これまでの様々な活動と、コロナ禍以降の活動で何か変わったと感じるところはありますでしょうか。
大澤優真さん(以下、大澤):そうですね。私たちが支援してる人は、主に「仮放免」という状態の人たちが多いんですけれども。まず、コロナをきっかけにして仮放免者の方が増えたんです。というのも、入管施設に収容していると、施設が密になって駄目だということで、仮放免になるということがありました。2021年末現在で約6000人の方が仮放免ということになっています。
しかし、これまで仮放免の方を支えてきた人たちも、このコロナで困窮状態に陥ってしまった。日本人も外国人もみな困窮してしまい、コミュニティで仮放免者を支えられなくなったという現状があります。そのような背景から、仮放免者はより深刻に困窮してるっていう現状があります。
荻上:これまで入管施設が仮放免を渋ってきたこと自体にも、もちろん課題がありますが、他方で一気に収容者の方が仮放免となるとコミュニティを支える力というのがなかなか厳しいということですね。先ほどもお話がありましたけれども、仮放免の方は就労が禁じられているので、医療もそうですし、貧困の中での課題が多いですね。
大澤:そうですね。就労が認められていなくて雇われるのも駄目ですし、何か自営業的に働いてお金もらうってこともできません。その一方で、国は健康保険を出さないと言っています。生活保護も出ません。「働いてはいけない」し「何の手当もしません」と言われていて、文字通り生きていけない状況です。
荻上:保険適用されないということは自費診療ということに一般的にはなるんですね。
大澤:100%自己負担になります。保険証が使えれば3割負担ですけども、それが100%なので、風邪だけで病院に行っても2万円、3万円が一気に飛んでしまいます。病院によっては、通常の2倍、3倍を請求されることもあります。2倍、3倍というのは、100%の2倍3倍になるので、本当に大変な状況です。
荻上:なるほど。そうすると相談会に来られて、例えばご病気が発覚されたとして、そこから治療に繋げるという中でも、色々な課題がありそうですが、そこはいかがでしょうか?
大澤:そうですね。まずお金が圧倒的に足りないですね。先ほどお話ししたように風邪でも2万円3万円かかってしまうので、仮放免の方たちは小さい病気では病院に行けないんです。我慢して、我慢して、重症化してしまって、最後に私たちの目の前に来るときには、本当に大きな病気になってしまっている。そして、いざ病院に行くと「がんの手術が必要だ」ということになっていて、50万円、100万円、300万円必要だということになる。そして病院によっては、その2倍や3倍になってしまうので、600万円とか900万円とかかってしまう現状があります。
荻上:それを普段でしたら、コミュニティが一生懸命支えていたという状況が続いていたわけですね。
大澤:コロナ前はなんとか支えることができていたかもしれないのですが、コロナ以降、本当に圧倒的に深刻な困窮状態になってます。
休眠預金の活用には、現状を多くの人に知らせるためという意味も
荻上:そうしたコロナ禍の中で、コロナ対応支援枠で休眠預金活用事業に参画されています。まずはどうしてこの休眠預金を活用しようと思われたのでしょうか。また、どんな活動に生かされているのでしょうか。
長澤:申請した背景は、二つあります。一つは、他の助成金と比べて助成額が大きいことです。
もう一つは、新しい枠組みの助成だからこそ、こういう状態にある人たちがいることを知ってほしい、情報を広めたいと考えました。この二つの意味を持って申請しました。
荻上:なるほど。申請そのものを「コミュニケーション手段」として考えているということですね。
長澤:そうですね。世の中には、色々な団体があるのですが、やはり「こういった人たちがいる」ということを知ってもらい、「どうしてこんなに大変なんだ」ということをよく理解してもらって、社会を良くしていかなければいけません。そのためには、やはり助成金を出してるところに知ってもらうのが一番だと考えています。
荻上:「外国から来られた方込みの日本社会が、既にあるんだ」ということを、伝えたかったということですね。休眠預金活用事業にコロナ対応支援枠に2020年度・2021年度で2回採択されて、どのように活用されているのですか。
長澤:基本的には、医療支援ですね。健康診断会を開催し、そこから出てきた病気の方たちを病院に連れて行き、そこでの支払いに活用しています。1回目の採択時には、家賃支援ですとか水道光熱費などの生活そのものを支えることにも使いました。平たく言えば、「生活保護」です。
実際上、私たちがやってる活動を全部見直したら、「これはもしかして生活保護」だなと感じました。しかし、家賃の支払いだと、今の状態では1ヶ月か2ヶ月しか支援できない。生活保護であれは、1年間やれますけれども。それを活動でやり始めたら、もうとても医療支援はできません。1財団さんにお願いする枠をはるかに超える金額になるので、それは難しいと思います。
荻上:一人一人の生活そのもの、コミュニティそのものを支えるだけの財源が必要となってくるわけですね。1団体でできることの限界というのも、併せて見てこられたわけですね。
長澤:当初は健康診断会やって、病院連れて行くことからスタートしました。その次は病院でどうやって病気を治すかということを考えました。健康診断会で病気と思われる人には病院を教えて行ってもらうわけですが、支払い能力がないわけです。しかし病院の方は、応召義務(診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合、正当な事由がなければ拒んではいけない)があるので、来た人を「お金がない」という理由では断れないわけです。
そのような中、どんどんそのような方を連れて行くと病院の方が嫌がってしまい、先ほど大澤が申したように2倍、3倍というお金を徴収するようになってしまう。ですから、最初から私たちが介入し、100%のうちに「私たちが払うから」と説明して繋いでいくほうが全体がうまくいくわけです。
荻上:仮放免の方は移動制限があるので、多くの方が近くの病院に行きたいと考えると思います。しかし、近くの病院が排除的な状況ですと、医療そのものから断たれてしまうという状況になってしまいます。そこでも、現実を知ってもらうというコミュニケーションが発生するんですね。
大澤:そもそも存在を知られていないですね、そこが大前提であるかなと思います。例えば仮放免であっても使える制度っていうのは、若干ですけどあるんです。例えば入院助産っていう出産のお金です。これオーバーステイの人に使えるのですけども、「使えますよ」って病院に行っても「いや、うちでは」とか、「うちの自治体でやらない」と。昔の国の文書を見ると使えるって書いてあるのですけど、なかなか存在を知られていないがゆえに理解も全然進んでない。
いろんな問題ありますけど、まずは知ってもらわないといけないなと思いますね。
荻上:知っていただいた上で病院側が変わったというケースもあるんですか。
長澤:「ずいぶん変わってきているな」という実感はありますね。はじめ、仮放免というのか、在留資格のないような人が病院に行くと、断られるんです。そのような中、(在留資格のない人でも使える制度などの)いろんな資料をもって病院に説明に行き、院長先生が資料を読んでくださり、その後、「仮放免許可書を持ってきた人は無料で診るから、送ってくださっていいよ」とおっしゃっていただいた例がありました。皆さん、知らないんです。でも知ると変わるんです。
私が活動を始めた頃は行政もそうで、県の担当者に話しても「仮放免って何ですかって。教えてください。」というところからスタートしました。そこから「無料・低額診療制度」を使えないのはおかしいということで、健康課の担当の方に連絡をして話をしてもらい、制度が使えるようになって、その翌年から一気にいろんな病院で制度利用が可能となりました。やっぱり、地域行政との関係の中においても、働きかけや知ってもらうためのアクションは必要です。
仮放免者の方々の状況を伝え、市民の力で支えたい
荻上:最後に今後の活動でどういった点力を入れていきたいのかなどをお聞かせください。
大澤:はい。まず「目の前で生きていけないほどに困窮している仮放免の方々の生活を守る」というとこが大前提ですね。そのためにどうするかっていうとこなんですけども。行政とか病院とか、いろんな人とコミュニケーションを取りつつ、今私が一番したいのは多くの人に仮放免者の存在や状況を知ってほしいっていうことです。
先日、川口駅近くで「難民フェス」というものをやったんです。当日はあいにくの雨で寒かったんですが、そこには1000人を超えるぐらいの人が参加したと聞いてます。関心のある人はいるんです。ですから、そういった人に、この仮放免者の状況をしっかり伝えて、いろいろと動いていく基盤を作りたいなと思ってます。
荻上:来年以降の活動や展望について、長澤さんいかがですか。
長澤:そうですね。広く活動を広げていって。あとは、病気になった人を、私たちの市民の手で治せるかどうかっていうのは定かではないですが、チャレンジの一つと捉えてやっていこうと考えています。
去年も色々な記者会見をやらせてもらったり、報告をさせてもらったりして、ずいぶん皆さんから寄付をいただいていて、ほとんどの寄付を治療費に使うことができ、とても喜んでいます。今後も、同じような形態でやれたらいいなと考えています。加えて、私たちの側から別な形態を考えて、例えば、海外へのアプローチを含めて寄付の範囲を広げていきたいと考えています。
荻上:今回は休眠預金活用事業 がどういうものか知りたいという方や、休眠預金が適切に活用されているかを知りたいという方も多いと思いますが、そうした関心からであったとしても、まずはこの仮放免者や様々な背景をお持ちの方が、日本でどのように暮らされているかをぜひ知ってほしいですね。
長澤:そうですね。まさにその通りで、正直、休眠預金を活用したコロナ対応支援枠での活動がなかったら、多分、私たちは行き詰まってたんじゃないかなと思うんですね。これまで自分たちで長年お金を集めて活動してきましたが、パワーが違います。そして、休眠預金活用事業は、落としどころをきちっとつければ、意外と活用については自由度が高いっていうことがよくわかりました。
今、仮放免者は約6000人弱ぐらいいます。私たちは、どこもやらないのであれば、自分たち市民の力でなんとか支えたいと考えています。しかし仮に、6000人に生活保護150万円ぐらいの支援をするとなると、とんでもない金額がかかります。それは本来、行政がやる仕事です。生活保護を市民社会で実現できないのであれば、どこかで支えなければいけないと、そういう思いでいます。
荻上:これまである種の共助の仕組みを通じて支援してきたわけですが、その限界が見えてきました。ならば公助の枠組みを問うという、そういったコミュニケーションも、ぜひこのインタビューを見る方にも考えてほしいですね。
本日は、ありがとうございました。ありがとうございました。
酪農学園大学卒業後、食品会社に就職。2006年にカトリックさいたま教区終身助祭となる。北関東医療相談会の前身となる「外国人の為の医療相談会」を1993年に群馬県で発足。以来、生活に困窮する人の健康診断の費用や治療費、食料や家賃などの支援に取り組む。
法政大学大学院人間社会研究科博士後期課程修了。博士(人間福祉)。大学非常勤講師。2018年より困窮外国人支援団体「北関東医療相談会」事務局スタッフとして、仮放免者など困窮する外国人の支援を行う。
メディア論をはじめ、政治経済やサブカルチャーまで幅広い分野で活躍する評論家。自ら執筆もこなす編集者として、またラジオパーソナリティーとしても人気を集める。その傍ら、NPO法人ストップいじめ!ナビの代表理事を務め、子どもの生命や人権を守るべく、「いじめ」関連の問題解決に向けて、ウェブサイトなどを活用した情報発信や啓蒙活動を行なっている。
社会調査支援機構チキラボ 代表
【事業基礎情報 Ⅰ】
実行団体 | 特定非営利活動法人 北関東医療相談会 |
事業名 | 外国人が生きていくための医療相談、新型コロナウイルス対策事業 |
活動対象地域 | 関東(群馬県、栃木県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、川口市) |
資金分配団体 | 公益財団法人 日本国際交流センター |
採択助成事業 | 2021年度新型コロナウイルス対応支援助成 |
【事業基礎情報 Ⅱ】
実行団体 | 特定非営利活動法人 北関東医療相談会 |
事業名 | 医療からほど遠い在留外国人の側に立つ |
活動対象地域 | 北関東 |
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 ジャパン・プラットフォーム |
採択助成事業 | 2020年度新型コロナウイルス対応緊急支援助成【事業完了】 |