50歳の商社マンが選んだプログラム・オフィサーの道|POリレーインタビュー no.002

50歳の商社マンが選んだプログラム・オフィサーの道|POリレーインタビュー no.002

プログラム・オフィサー(PO)として活躍中のみなさんに、「POの仕事の魅力とは?」「POを通じての学びって?」「大事にしていることって?」など様々なお話を伺う「POリレーインタビュー」。第2回目の今回は、 NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ 渋谷雅人さんにお話を伺いました。


「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる。」日本中のこども食堂をサポートするNPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ(以下、むすびえ)は、2018年に設立された新しい団体です。在籍する2人目のプログラム・オフィサー(PO)として活躍するのが、商社を早期退職してむすびえに参画した渋谷雅人さん。渋谷さんがどのような活動をされているのか、企業からの転職が活きると確信する理由をお聞きします。

POリレーインタビュー!渋谷さんに聞きました

社会課題を実感した、こども食堂の別れ際

ー渋谷さんは2020年からむすびえに参画されたとお聞きしましたが、どのような経緯があったのでしょうか?

大学を卒業して、住友商事に27年間勤めていたのですが、50歳の時に早期退職を選びました。僕は子どもの頃からサッカーが好きで、「仕事でもチームプレーがしたい」「もっと仲間と一体感を持って、人の役に立っていることを実感できるような人生を送りたい」と願っていました。40歳から10年間悩んで、ようやく退職を決断。妻が若くしてがんで他界してしまって、死生観が変わったと言いますか、「人生の充足感をもっと味わいたい」と感じるようになったことも大きかったと思います。

こども食堂との出会いは、退職の2年ほど前、仙台勤務中に参加したボランティアでした。初対面の子どもたちと2時間ごはんを食べて遊んでお別れをする時に、4歳の女の子がとことこと僕のところに駆け寄って来たんです。僕を“しぶっち”と呼びながら、「ぎゅっとして」とハグを求めてきたんですね。その瞬間、子どもたちの感じている寂しさ、甘えたいけど言葉にできない状況など、色々なことに思いを巡らせました。それから、ハグを求められて拒否する大人はいないはずだとも確信しました。あの体験が、こども食堂の魅力や子どもたちを取り巻く社会課題に気がつく第一歩だったかもしれません。

ーはじまりは、こども食堂でのボランティアだったのですね。支援の形には様々ありますが、プログラム・オフィサーという仕事に就かれたのは何かきっかけがあったのですか?

そのこども食堂の運営者の方から、「商社にいたならファンドレイジングを学ぶといいよ」と声をかけていただいたことです。「それ何ですか?」と思いながら、日本ファンドレイジング協会の鵜尾 雅隆さんのメッセージを見て、すぐにファンドレイジングスクールの受講申込みボタンを押しました。「ファンドレイジングを通して、善意のお金の流れを生む社会のシステムに変えていきませんか」という趣旨のメッセージに、とても共感したからです。

スクールに通いはじめてから、ソーシャルな方たちとの出会いが増えて、その中の一つがむすびえでした。むすびえでPOを務める三島が、ちょうど、彼女に続くPOを探しているタイミングで声をかけてもらい、こども食堂を軸としたソーシャルチェンジをライフワークにしていきたいと思い、手を挙げました。

プログラム・オフィサーは現場から組織のあり方を考える

ーPOは国内ではまだあまり認知されていない職業ですが、休眠預金活用事業を通して、少しずつ人材募集も増えています。渋谷さんがPOをしていく上で一番大切にされているのは、どのようなことでしょうか?

資金を受け取って事業を行う実行団体と、資金分配団体であるむすびえメンバーの対話ですね。“お互いに何でも言える関係”を作っていくことです。
まずは我々自身がそういう組織でいるために、POとその補佐を含めて、毎週月曜日の朝に1時間の固定ミーティングをしています。実行団体とのミーティングは月1回。最初15分のチェックインで全員が同じ問いに答えることで、発言しやすくなる“場の安全性”を確保しながら対話を進めています。

秋にJANPIA主催で開催された2020年度採択 資金分配団体向けのPO2年目研修を受けたのですが、「普段現場にいないからこそ見える広い視野で捉えて、大きな座組みをしなさい」という話がありました。改めてハッとして、大切さを自覚しました。POは、実行団体が向き合う現場のことを、現場以上に知っている必要があると思っています。だからこそ、様々な現場に出向いて、現場の人が感じている臨場感を共有していくことが大事になります。その上で一歩引いて、どうすれば活動がうまくいくか広い視野で見ていく役割を担わなくてはと考えています。

ーむすびえは資金分配団体としてだけでなく、中間支援団体として数多くの事業を実施されています。団体としての棲み分けや、プロジェクトを進めていくためのヒントなどがあれば、ぜひお聞かせください。

内部ミーティングで休眠預金活用事業のPOである三島と渋谷が何をしているのか、どんなことがあって、どんな学びがあったかを、常に共有してアップデートすることを大事にしています。そのおかげで新たなPOの候補も育ってきています。POのマインドを持った人材を育成していくことは、むすびえで実施している休眠預金活用事業以外の事業においても中間支援力の向上に直結すると確信しています。むすびえの事業の幹を形成する上で、POは重要な役割になってきていることを感じます。

また、むすびえには、多様性を認めながら自立を大事にするというカルチャーがあります。「プロジェクトリーダー制」を敷いていて、17人がプロジェクトを起こして、資金調達も人材採用も自分でする。小会社の社長が17人いて50くらいのプロジェクトがあるようなイメージです。もちろん大前提にむすびえのビジョンへの共感があって、隣のプロジェクトも意識しながら、皆で組織を良くしていこうという姿勢でいる。組織のあり方としてチャレンジングですが、楽しいです。社会変化の中で、多くの方から僕たちに期待を寄せて頂いているので、もっとスピード感を持たなくてはという思いもありますが、自由があるのは「むすびえ」らしいですね。

企業からの転職の先にあった「心地良い世界」

ーむすびえのPOとなって1年が経った今、どのようなところにやりがいや魅力を感じていらっしゃいますか?

「想像以上に心地いい世界だな」というのが第一声です。企業時代の最終的な評価は、どうしてもいくら利益を出したかという話になります。だけど、仲間と喜びを分かち合えるのは、例えば「あのお客さん喜んでくれていたな」と共に感じた時。人から感謝されることがすべてじゃないかという思いでいました。こども食堂のようにソーシャルな世界では、僕がアウトカムとして求めていたものが、自分の価値提供でまっすぐに返ってくる。それは、想像を超えていました。

POとして活動していると、「あなたにお金を渡すから社会を変えてくれ」「託すよ」と言われている気がするんですね。お金を託していただいて、社会を変えるチャレンジの機会を与えてもらっている。その環境の中で事業や自分を成長させていくことに、とても喜びとやりがいを感じています。

ー今まさに転職を考えていたり、自分に合った仕事を探しているという方も多いと思います。企業での経験はプログラム・オフィサーやNPOでの仕事に活きるのでしょうか?

非常に活きていると思います。僕自身の経験で言いますと、入社直後から利害関係が不一致なところとパートナーシップを組みながら「合意形成」していく、という難題にさらされていました。例えば、納期が折り合わない時、どう調整してバランスを取るか。同じように、中間支援をしていこうと思った時に、「支援したいところ」と「必要といしてるところ」をどう組み合わせるのか、コンサルティングしたり、まとめていく過程には、企業で学んだことをそのまま活かせています。

他にも、実行団体と一緒に、地域資源を融合しながらどのようにアウトカムを達成していくかを考えるときや、むすびえ内部でのチームワークでも活きています。人脈もありますね。企業時代に付き合いのあった人がボランティアに参加してくれたり、取引先が支援してくれる例もあります。

例えば、企業では、どれだけのリターンがあるか考えながら投資案件を選定していきます。そこで問われているのは「社会変化」ではなく「儲け」ですが、使う思考回路はNPOも一緒で、「お金の調達手段」と「受益者からお金が来ない」という2点が違うだけで、どうすれば事業価値が上がるかという思考は同じです。企業時代に思考した経験値をそのまま持ってきて、POとして活躍できる。営利と非営利の間にあるギャップを“通訳”さえすれば、知見・経験が活きるのではないかと思います。POという役割があることで社会的意義を感じながら活動できるので、自分の居場所をすごく整理しやすいです。

ーむすびえさんには、企業勤務を経験された方も多いのでしょうか?

企業兼務者とか企業出身者が多いです。元企業人だからこそ、ソーシャルな世界で貢献できること、企業に働きかけられることはないか、もっと考えていきたいと思っています。

転職を検討している人に向けてよく伝えるのが、「非営利か営利かという選択ではなく、人生を豊かにするための選択肢としてNPOで働くのもいいよね」という話です。転職のハードルを低くするにはNPOの収入が上がっていく仕組みも必要ですが、「あなたの経験がPOに合うよ」という人が実はたくさんいます。その方たちにPOという仕事を知っていただくためにも、僕たちの経験を噛み砕いてもっと発信していきたいと、最近とても思います。

ー中間支援の向上につながるとおっしゃった通り、プログラム・オフィサーは休眠預金活用に関わらず、社会課題を解決していくために必要な職業だと感じます。

最初は、ほかの仕事と並行しながら月20時間のつもりで活動をはじめましたが、のめりこんでいくと「こういうことが実現できるんだ」「むすびえでこれをやっていけば社会変えられるよね」という面白みや、同じゴールを持った仲間がいることが心地よくなって今や120時間の勤務になりました。むすびえがチャレンジしているソーシャルチェンジに「みんながもっと助け合う社会が作れたらいい」というのがあります。その原型がこども食堂にはあると思っていて、そこに携われることが喜びです。

POリレーインタビュー!2022年度も継続実施予定。ご期待ください!

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