JANPIA設立から指定活用団体へ、オールジャパン体制を目指す
司会(JANPIA職員):JANPIAは2022年7月に設立から4年目を迎えました。設立当初を振り返るなかで、とくに印象深かった出来事などはありますか?
逢見元理事(以下、逢見):そもそも休眠預金の活用については、10年以上前から議論されていました。私もその情報に触れるたびに、「上手に使えばきっといいものになる」と思っていました。しかし、まさか自分がその活動にかかわるとは思ってもいませんでした。
JANPIA元理事 逢見 直人さん
それが、当時、連合の会長代行を務めていた私のもとに、経団連から「指定活用団体の公募に手を挙げたい。ついては、経済界・労働界・ソーシャルセクターをはじめとしたオールジャパンによる団体を作りたい」という話が届きました。そこから私も参画し、JANPIAが設立されました。そして、内閣府による「指定活用団体の公募」への申請にあたっては、労働界からも職員を派遣してほしいとの要請があり、私も全労済と労金協会に出向いてJANPIAの趣旨を説明し、この活動の将来を担ってもらえる人物を推薦してほしい、と頼みにいきました。
我々は、「指定活用団体・資金分配団体・実行団体」の3団体がいかに効率よく機能し、休眠預金等を有効活用する方法、そして実行団体の熱意を酌んだサポートをどのように展開していくか等の方法論に重点をおき、構想を固めていきました。休眠預金等活用審議会委員による面接では、二宮理事長と事務局のメンバーがJANPIAの構想をしっかりと伝えてくださいました。あとから話を聞くと、JANPIAのほかにソーシャルセクターに関しての専門性が高い人材で構成された団体など3団体が名乗りを上げていましたね。
二宮理事長(以下、二宮):我々はオールジャパン体制を目指した一方、他の申請団体と比較してソーシャルセクター出身者が少ないということで、活動の実際を知らないことへの懸念が審議会の委員の方々にあったと思います。そのためか、面接は2時間に及びました。ほかの団体も入念な構想を描いて面接に臨んでいましたから、どのような結果が出るかハラハラしたのを覚えています。
逢見:私も結果が出るまではハラハラしました。そして、実際に指定を受けると、「大変な責任を担うことになった」と、その責務の重さを再認識しました。
徹底的な対話から生まれるパートナーシップ
司会:そして2019年1月11日に指定活用団体としての指定を受けJANPIAの活動が始まりますが、その頃のことで思い出されるのはどのようなことでしょうか?
逢見:当初の理事は3名体制で二宮さんが理事長、柴田雅人さんが専務理事兼事務局長、そして私というメンバーでした。理事会を開くと、二宮さんが議長を務められるので、柴田さんと私のどちらかが質問して、どちらかが応えるという形になります。質問者が1人だけの理事会には、当初は戸惑いもありました。(笑)
二宮:設立当初は基盤作りとして、様々なことを決めなくてはいけないことから、迅速に適切な決議ができるようにということがあって3人体制でスタートしました。しかし、その後、事業が進展していくなかでソーシャルセクターの方たちにも入っていただき、現在は5人体制になっています。これは、運営上非常に適正な規模だと感じています。
司会:設立当初からいろいろなことを話し合ってこられたと思いますが、そのなかで難しく感じたことはありますか?
逢見:指定活用団体と資金分配団体、実行団体の3層構造が円滑に機能していくかということが、非常に心配でした。我々指定活用団体は、ともすると資金分配団体・実行団体に対して上から目線になってしまう。しかし、それではいけません。
JANPIA 二宮 雅也 理事長
二宮:その通りです。そこで我々が活動の根幹に置いたのは、資金分配団体・実行団体の方たちとの対話によって連携・協働することでした。様々な課題はありますが、業務改善プロジェクトのように、実務上の課題等を改善していくために、徹底的に資金分配団体の皆さんと話し合い、パートナーシップを築いていくことを大切にしています。その流れは、しっかり出来てきていると考えています。
逢見:そこは最も大事な点ですね。JANPIAの職員の皆さんにもその考えは浸透し、結果としてそれが機能しているのではないかと感じています。
POの活躍は、この制度の財産
司会:ところで逢見さんは、2019年度資金分配団体のプログラム・オフィサー(PO)の必須研修に全日参加されたそうですね。どのような思いで参加され、また印象的だったこと等お聞かせください。
逢見:休眠預金等の活用において3層構造の中間に位置する資金分配団体は、単に実行団体に助成金を渡すだけでなく、実行団体の伴走者としての役割がとても重要です。そのためのPO研修が始まるに際して、実際に研修の内容を見てPOとなる人たちと接してみたい、という気持ちがありました。
実際に参加してみると、私自身も「POにはこういった役割もあるのか」と気づかされ、認識が深まりました。そして参加者との討議などを通して思いを知り、我々と思いを共有している人たちが多くいることがわかり、PO研修に参加したことは大きな価値がありました。
POの方々が2期、3期と活動を続けてくれることで、さらに広がりを見せ、試行錯誤しながら活動している実行団体の皆さんへも、しっかりした方向性を示すことができるはずです。これはこの制度の財産になるでしょう。
二宮:研修を受講したPOは約180名になりました。プログラムを企画立案し、マネジメントもできて成果につなげる、そういう役割を担う人を増やしていくことは重要です。そのなかで休眠預金等を有効に活用していく流れができると思います。
2019年度のPO研修は集合形式で行われました。懇親会(中央壇上)でご挨拶される逢見理事(当時)
コロナ枠で社会変化に臨機応変に対応
司会:コロナ禍が続く現在、JANPIAでは2020年度に新型コロナウイルス対応緊急支援助成(以下、コロナ枠)を開始して、2022年度も新型コロナウイルスや物価高騰に対応する助成制度を継続していますが、これについてはいかがでしょうか?
逢見:コロナという予期しない事態が起き、感染予防のためとはいえ人の行動を止めることになりました。「これは困る人が相当出る」、とくに社会的に弱い立場の人にシワ寄せがいくことが心配されました。そして「ここは休眠預金の出番!手をこまねいていてはダメだ」ということになりました。
そこで、「通常枠」とは別に緊急的にコロナに対応する助成制度を立ち上げました。これは休眠預金活用の価値を社会に知ってもらうためにもよかったと思います。
緊急的な助成ですからスピーディーに物事を決めて取り組んでいかなくてはいけない、かといってずさんな運営ではいけない。スピード・緻密な運営・確かな結果、このバランスを取ることに全員で力を注ぎましたね。職員もほんとうに大変だったと思いますが、コロナ枠を実施していることはJANPIAにとっても意味のあるものだと思います。
二宮:世界がコロナを認識してまだ2年半です、その後にウクライナの戦争、それに続くエネルギー危機や物価高騰など、市民社会に影響を与えることが次々と起こっています。JANPIAではそれらについても取り扱うことになりましたが、設立当初はまさかこういった事態が起こるとは思っていませんでした。
逢見:SDGsの持続可能な開発目標に合わせて、社会課題の解決は大事だという議論はありましたが、「社会課題」という言葉はこんなに広く人々に知られるような言葉ではありませんでした。しかし、JANPIAでの活動を通して、本当に社会における課題にはいろいろなものがあるということがわかりました。
なにかが起こったとき、もちろん政府が行うべきことはありますが、民間はどうすればいいのかも考えなくてはいけません。その点で、JANPIAは、いま必要なことは何なのかを考え、常に備えておかなくてはいけませんし、今ある問題を短期的視点だけで取り組むのではなく、その大元にある問題は何であるかを見ていくことが大事です。
二宮:その通りです。今までのように「想定外」とか、「思いもしなかった」は通用しません。次に別の危機が必ず来ることを認識して、そのときのために備えることが大切です。
休眠預金活用事業がタンポポの綿毛のように各地に広がり、大きな力に
司会:今年度の1月が法律施行後5年にあたり、いわゆる「5年後の見直し」の時期になります。そこで、私たちJANPIAが心掛けるべき点についてアドバイスをお願いします。
逢見:まず実績を示し、そのうえで次の5年に向けた課題を洗い出し、それをよりよいものにしていくことが大切だと考えます。国民の資産である休眠預金等は公正かつ透明に使っていかなくてはいけません。しかし、あまりにも手続きが煩雑で多くの労力が必要になるようでは、本末転倒です。簡素化できるものは簡素化し、スピーディーに物事を決めていかなくてはいけません。この点の改善についてはすでに行っていると思いますが、さらに次の5年に向けて磨きをかけてほしいと思います。
司会:最後に休眠預金を活用する団体の皆さんへ向けてメッセージをいただければと思います。
逢見:休眠預金活用事業は、公的な制度の狭間で取り残されている社会課題の解決を支援するものでで、皆さんの活動は非常に意味があるものです。
休眠預金を活用した事業のシンボルマークの綿毛のように、皆さんの社会を支える力が舞い上がって、それぞれの地域に根差し花開く。まさに綿毛のように多くの人に届き、様々な場所で良い変化をもたらすでしょう。そして、一つ一つの取り組みは小さいことかもしれませんが、集まれば大きな力になって世の中を変えていけると考えます。
二宮:JANPIAスタート時に掲げた我々のビジョン、「誰ひとり取り残さない社会作りの触媒に」、という根幹の考えを、逢見さんにあらためてお話しいただいた思いがします。5年後の見直しに向けた総合評価も行っている最中ですが、こういったことを含めながら本事業の在り方を、未来に向けて考えていきたいと思います。
逢見:次の5年はさらに大変な時期になると思います。休眠預金活用事業のさらなる発展を期待しています。
司会:はい、私たちもさらに頑張っていきたいと思います。本日はありがとうございました。
1976年ゼンセン同盟書記局に入局。日本労働組合総連合会(連合)副事務局長(政策局長)、UIゼンセン同盟副会長、全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟(UAゼンセン)会長、連合副会長などを務める。2019年よりJANPIAの理事として設立および運営に尽力。2022年1月に退任する。
1974年日本火災海上保険株式会社入社。2011年日本興亜損害保険株式会社代表取締役社長、2014年現損害保険ジャパン株式会社代表取締役社長、2016年同社代表取締役会長を経て2022年4月よりSOMPOホールディングス株式会社特別顧問。2018年7月のJANPIA設立時より理事長を務める。
[取材風景]
対談は広い会議室で間隔を開け、マスクをして実施しました。撮影のときのみ場所を移し、マスクを外していただきました。
司会は、JANPIA 職員(企画広報部 芥田真理子さん)がつとめました。