米国の財団から学ぶPOのスキルや役割・笹川平和財団 茶野さん|POリレーインタビュー no.001

米国の財団から学ぶPOのスキルや役割・笹川平和財団 茶野さん|POリレーインタビュー no.001

プログラム・オフィサー(PO)として活躍中のみなさんに、「POの仕事の魅力とは?」「POを通じての学びって?」「大事にしていることって?」など様々なお話を伺う「POリレーインタビュー」。初回となる今回は、JANPIA理事であり、長年、笹川平和財団でPOとして活躍してこられた茶野順子さんをゲストとしてお招きしてお話を伺いました。


「POリレーインタビュー」企画って?

休眠預金活用制度の特徴の一つとして、資金分配団体が資金的な支援だけでなく、実行団体の運営や活動をサポートする「非資金的支援」(伴走支援)があり、その中心的役割を担うのがプログラム・オフィサー(PO)です。「POリレーインタビュー」の企画は、「POの仕事って?」と思われる皆さんに、その仕事のやりがいなどを実際にPOとして活躍している皆さんのインタビューを通じて知っていただきたいという思いから始まりました。

初回は、JANPIA理事であり、長年、笹川平和財団でPOとして活躍してこられた茶野順子さんをゲストとしてお招きしました。茶野さんは現在、笹川平和財団の常務理事であり、フォード財団やアメリカのコミュニティ財団でのPOのご経験もあります。今回は、米国での経験についてやPOの育成、事業の運営等について、お話をお伺いしました。

「POリレーインタビュー!茶野さんに聞きました」

アメリカと日本の「非営利組織を取り巻く環境」の違い

─ 茶野さんは、アメリカの財団で働かれた経験があると伺いました。アメリカと日本では非営利組織を取り巻く環境は違うのでしょうか?

私は、アメリカではフォード財団に7年ほど在籍していました。その前には、アメリカの大学院にいたときに、コミュニティ財団であるフィラデルフィア財団で4ヶ月ほど仕事をしていました。

アメリカの財団についてよくご質問を受けるのですが、まず基本的なところをご理解していただいた上で話をした方がわかりやすいので、アメリカの財団の成り立ちについてお話しします。

アメリカ建国時代、まだ政府の役割が確立しない中で、生活面での様々な問題に対し市民がボランタリーに組織(アソシエーション)を立ち上げその解決にあたっていました。

1800年代にトクヴィルという政治思想家が「アメリカの民主政治」という本を書いているのですが、その中でも「アメリカ人は常にアソシエーションを作り、そこで色々な課題を解決している」という記述がありました。なので非営利組織、ボランティア団体に対しては基本的に国民的な信頼があるという点がアメリカと日本との違いの一つです。

─ 非営利組織を取り巻く環境が日本とは異なるのですね。そういった中で財団が誕生していったということでしょうか。

アメリカの最初の財団は1900年代初めに設立されました。南北戦争が終わって北部の工業化が盛んになった時に、資本家が莫大な資産を蓄えた時代背景の中、社会の色々なニーズに応えるために財団がつくられていきました。

まずスコットランドからの移民として苦労しながら資産家になったアンドリュー・カーネギーは、引退後に自著の「富の福音」の中で、「自分たちが資産を蓄えることができたのはコミュニティの人たちが自分たちの商品を買ってくれたからだ」と言っています。自分の得た富を子孫に残すのではなく、コミュニティに還元すべきだと述べていました。

一方ロックフェラーは、一時はイリノイ州の税収よりもロックフェラーの年収の方が多かったと言われています。すると彼のところに「こういうことがやりたいのでお金が欲しい」という寄付の話が押し寄せてくる。そこで彼は「自分はお金を配ることは本業ではない」とし、有識者と相談した結果、専門家が良い事業を見極めそれに対して資金をつけるという、現在の財団のシステムの元をつくりました。ロックフェラー財団は1913年に設立されました。

カーネギーやロックフェラーの財団は、資産家がみずからの資産を提供して財団ができたのに対して、コミュニティ財団はコミュニティの人たち自身がお金を出しあって基金を造成し、将来のお金の用途もコミュニティの人たち自身で決めていくことを基本とする財団です。ロックフェラー財団に1年遅れて設立されたクリーブランド財団が最初のコミュニティ財団と言われています。今は全米で約900ほどあります。

ちなみに、参考情報として、個人寄付、あるいは企業の寄付、そして財団からの助成金というのは非営利組織の資金源の中ではそれほど大きくなく、全体の12.9%くらいというのが最新のデータです。それ以外は非営利組織が提供するサービスに対して政府や民間が支払う対価が、その収入源の70%を占めています。

アメリカの財団における「PO育成」

─ アメリカの財団ではPOはどのように育成されているのでしょうか。

アメリカの財団には多様性があり、個人や家族が作った比較的小さい財団から、フォードやビル・ゲイツが作った大規模な財団など、規模や成り立ちも様々です。それぞれの財団が違うコンセプトで運営をしているので、一般論としてPOの育成について話すのは難しいところです。
ただPOを意識して育てている組織は、フォード財団やロックフェラー財団等の資産規模が大きい財団だと思います。

例えばロックフェラー財団だと、POに対して特に契約年度を設けず、ドクターを持っている学識経験者が財団のPOになっていると言われていました。
一方で私が在籍していた当時のフォード財団では、POの契約期間が3年間で、1度だけ延長ができ、最大6年間がPOとして活動できる期間でした。新人のための育成プログラムというものがありましたが、前提としてPOは、「その分野での実務経験」と「アカデミックな経験」がそれぞれ10年程度あると良いと言われていました。なお、最近の採用条件は、修士号と8年間の実務経験とありました。

ただ新人POはどんなに特定の分野での経験や知識があっても、POとして、事業の良しあしを見極める経験や成功例をどうやって拡大していくか、あるいは関係者とうまくコミュニケーションを取っていく経験などはないと考えられるので、ある程度の研修プログラムが必要になります。それから財団によって組織文化やミッション、歴史も違うので、その財団について知っておくことが重要になります。私がフォード財団にいた頃は、2週間の研修プログラムがあり、「フォード財団について知ること」に1週間を使い、もう1週間で「POとはどういうもので、どんな仕事をすると効果的な助成ができるか」を学びました。

もう一つ特徴的だったのは、当時はOffice of Organizational Services という組織がありました。この組織は、フォード財団としてどのように助成事業を効果的に実施することができるかを分析し、提言することを主な役割としていました。そこでは特に成功例と言われる事業でのPOの役割を分析し、効果的な仕事の仕方を皆さんに伝えていくことを大きな柱としていました。

─ それは興味深いですね。どんなことが伝えられていたのでしょうか。

POは、「Initiative」「General grant」「Opportunity grant」の3種類の助成事業に携わるのがいいと言われていました。
「Initiative」は規模の大きい、多くの場合いくつかの助成事業が複合的、かつ同時並行的に進行していく事業で、選択と集中によって、成果を増大させ、規模を拡大していきましょうというものです。これは、JANPIA のPOが資金分配団体を通じて社会課題を解決しようとする姿勢とも通ずるところがあるかと思います。一人のPOは2つから3つの大きな事業を担当することが推奨されていました。
「General grant」は、資金の使途を特定せず、関連分野全体としての活動に対する助成事業です。例えば教育分野や保健分野で仕事をすると、その分野の全国的な組織があったり、いろいろな調査団体があったりと、仕事をする上でお付き合いが必要な団体があります。そういう団体にある程度の資金を提供することで全体的な動きなどを把握することができるとともに、業界全体の底上げを図ります。
「Opportunity Grant」は、「Initiative」のような大きな規模な助成金だと見逃してしまいがちな新しい試みやユニークな取り組み等に対して試験的に少額の助成金を出し、どう花開くかを見据えることになります。

先ほども触れましたが、JANPIAの資金配分団体のPOの方は、色々な分野の中で「こういうニーズがあって、こういうことにお金を配れば社会に貢献できる」ということを考えて仕事をしていると思うんですね。そういう意味では、フォード財団が言っていた「Initiative」と、似ていると思いました。

フォード財団「Initiative」助成事業の事例

─ 「Initiative」の助成事業の事例を教えてください。

私の印象に残っている事業の一つに、 「Project GRAD」という教育分野での事業があります。通常は、助成財団が「教育分野にお金を出します」と言った時、教育分野で活動をしている様々な団体から申請が来ます。それら一つ一つに丁寧に対応することもその分野の底上げとしては重要ですが、最終的にそれが何になったかと考えると、あまり自信がもてないPOも多いのも事実です。選択と集中が必要と言われる所以です。そこで都市部の貧困層への支援の中でも、良い成果を上げ続けているテキサス州ヒューストンのNPOの活動に着目し、それを全米規模で拡大し、最終的には教育制度を変えていこうということで始まったものです。

「Project GRAD」(Graduation Really Achieves Dreams)は、卒業することであなたたちの夢は叶う、という意味です。というのも、都心部の貧困層では、高校卒業できずにドロップアウトしてしまい、よい職に就けず貧困が積み重なるという悪循環がありました。ある時、その課題解決の為にヒューストンでつくられたシステムが成功しているという情報をフォード財団のPOが知り、そのPOがそのシステムを検証した上で、それをそのほかの都市部の貧困層に広げようとしました。

このPOは、ヒューストンでの成功例についての内容を確認した後、これをInitiativeとして全国に広めることについて、上司とヒューストンの人たちの合意を得ます。その双方の合意を得た後、「こんなプロジェクトが成功しているので、あなたの地域でもやりませんか」と呼びかけ、そのための助成金を出すと伝えたわけです。と同時に、どこが外せない成功要素で、どこが地域特異性のある要素なのかを洗い出すこともPOの重要な役割です。そして、その成功の要素を他の地域にも伝えて、他の地域の事業の立ち上げ支援を行います。その後は、半年に1回の定期的なミーティングで質問を受けるなどし、「こういうやり方をすると成果の増大と規模の拡大を目指せる」ということをアドバイスするなどします。

茶野さんが考えるPOの役割

─ 茶野さんが考えるPOの役割とは、どのようなものでしょうか。

POの役割の一つは、今の課題がどこにあり、どんな人たちがその分野にいて何をしているかを見出すということだと言えます。色々な提案がある中でどの提案が有望かを見極める目を持つこと。それからざっくばらんな関係をつくり、コミュニケーションの目的を明らかにしながら、課題解決のパートナーとなることもPOの重要な役割です。

そこで重要になるのは「無理強いはしない」ということ。なぜかというとやはり資金を持っている側は、力関係として強くなってしまいがちだからです。そしてどう資金提供するかについても工夫する必要がありますし、先ほどのProject GRAD の例でもあったように、成功例を見出し、それを分析してパターン化をして普及をさせていくこと。これらがPOが社会貢献できる役割の中で一番重要ではないでしょうか。

【次回予告】

次回は、「渋谷雅人さん」(NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ プロジェクトリーダー)にお話を伺います。ご期待ください!

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