コロナ禍における外国人分野の支援を実現
日本に住む外国人の方々は、生活に関わる情報を母国語で得ることが難しいという課題があります。ある在留外国人向けに実施された調査では、在留外国人の9割が「日本語がわからないことで困った経験がある」と回答しています※。特に、新型コロナウイルス感染症や自然災害など非常事態に見舞われると、言語の壁はさらに大きな問題になります。非常事態における「母国語での情報」や「日本語学習の支援」がどれだけ心強い支えになるのかは想像に難くありません。
2020年度新型コロナウイルス対応支援助成の資金分配団体である公益財団法人 佐賀未来創造基金(コンソーシアム構成団体:一般財団法人未来基金ながさき)は、コロナ禍における外国人分野の支援を実現するため、4つの実行団体を選定し活動しています。今回の成果報告会は、その4実行団体と資金分配団体がオンライン上で集い、「新型コロナウイルス対応緊急支援助成での取り組みと成果」を共有し、その成果を発信することを目的に開催されました。会の前半では、実行団体4団体がそれぞれの休眠預金活用事業での取り組み内容についてプレゼンを行いました。以下、それぞれの団体のプレゼンの概要をご紹介します。
※在留外国人総合調査「日本語学習について」株式会社サーベイリサーチセンター(2020年9月23日)
【プレゼン概要1】 佐賀県国際交流協会(SPIRA)「外国人住民に対する多言語情報提供事業」
報告者は、「公益財団法人佐賀県国際交流協会(SPIRA)」の矢富明徳さん
1990年に設立されたSPIRAは、「国の国境をなくそう!」(Free Your Heart of Borders!)をスローガンとして活動しています。佐賀県に住んでいる外国人は7,031人(2020年1月1日時点)で、うち40%が技能実習生。国籍はベトナムが一番多く、次いで中国、フィリピン、韓国、朝鮮、インドネシアの順になっています。
SPIRAが「外国人住民に対する多言語情報提供事業」に取り組んだ背景には、日本語が苦手な外国人住民は日本での生活が困難な状況にあり、さらに新型コロナウイルス感染症の情報へリーチできずに深刻さを増しているという課題がありました。そこで、新型コロナウイルス感染症に関する様々な情報や手続きなどについて、母語による情報提供や相談対応ができる環境を整備することにしました。具体的には、協会職員等で対応可能な英語・中国語・韓国語・やさしい日本語に加えて、ベトナム語・インドネシア語・タガログ語・ネパール語ができる人を採用して週1回勤務してもらい、多言語による情報提供と国際交流プラザでの対応を目標としました。
事業の成果として、まずはSNS等による情報の随時発信があります。
「佐賀県から出ないようにというメッセージが出ても、外国人の方に届かなければ出かけてしまい、外国人への偏見につながりかねない。できるだけ早く伝える必要があり、随時発信してきました」と矢富さん。
Facebookの発信には絵をつけて、一目で内容が分かるように工夫しています。ホームページでも多言語で情報を提供し、ワクチン接種の流れを紹介したり、YouTubeの説明動画に10言語の字幕をつけたりしています。また、市から要請を受けて、集団接種の会場で受付から接種完了まで外国人をサポートしました。そのほか、2021年8月に佐賀で豪雨災害が起こった際には、8言語で情報を提供しました。
「多言語パートナーと県職員などで力を合わせて取り組んでいます。みんなが暮らしやすい佐賀になるように今後も続けていきます」と意気込みを語りました。
【プレゼン概要2】 ユニバーサル⼈材開発研究所「平時から備える災害時多言語発信~母語グループ設立による包括的外国人支援~」
報告者は、一般社団法人ユニバーサル人材開発研究所とコンソーシアムを組む「サワディー佐賀」代表の山路健造さん
サワディー佐賀はタイ人のネットワークを作るため、2018年にスタートした団体です。タイ料理教室や東京五輪のホストタウンとしてのおもてなし、祐徳稲荷神社への通訳ボランティアの派遣などを行い、災害時はタイ語での発信にも力を入れていました。それらの活動が評価されて、2020年度「ふるさとづくり大賞」で団体表彰(総務大臣表彰)を受賞しました。
佐賀県では災害が起こると佐賀県災害時多言語支援センターが立ち上がり、8言語で対応されます。サワディー佐賀では、行政でカバーできていない残り4%のミャンマー語・タイ語・シンハラ語に対応すべく、事業に申請しました。そして、タイをモデルケースとして、ミャンマーとスリランカのFacebookのページを作りました。今年2月にミャンマーでクーデターが起こった際は、ミャンマー人を対象としてオンラインの生活相談会も行いました。
サワディー佐賀では、通常LINEグループ(62人登録)でやり取りをしています。災害など外国人に知らせたい情報が発生した場合は、山路さんがやさしい日本語に変換し、翻訳チームがタイ語に翻訳し、タイ人メンバーがネイティブチェックをしてから発信するようにしています。ミャンマー語とシンハラ語も同様の仕組みにしました。2021年8月豪雨の際は、タイ語・ミャンマー語・シンハラ語で情報発信を行いました。
「平時からグループを組織化していたことで、スムーズな情報発信ができた。平時こそ、こういう体制を作っておくことが重要だと改めて実感しました」と山路さんは力を込めます。
山路さんは、NPOが災害情報を発信するメリットは多いと指摘します。まず、行政は公平性を担保するために同時発信に配慮するが、NPOは翻訳が完了した言語からスピーディに発信できること。翻訳のソースとして、行政の情報だけでなく新聞やテレビ、気象庁など多岐にわたる情報を扱えること。
また、「翻訳スタッフに謝金を支払えることも大きい。ボランティアでお願いしているといずれ息切れしてしまう」と山路さん。さらに、グループ化によって顔が見えているため、必要とされる情報だけ翻訳すればいいという状況ができました。
今後は、少数言語による情報を県単位ではなく広域で共有できるプラットフォームを作りたいと考えています。同事業は地球市民の会で継承し、佐賀県の企業版ふるさと納税を一つの財源とし、地域おこし協力隊をスタッフとして続けていくそうです。
【プレゼン概要3】 Treasures of The Planet「長崎発信型在住外国人支援プロジェクト」
報告者は、「NPO法人Treasures of The Planet」理事長の松尾佳美さん
「長崎発信型在住外国人支援プロジェクト」では、長崎市在住の外国人を対象としてオンライン・アンケートや面接インタビューを行い、新型コロナウイルス感染症の広がりによって直面している問題を把握。多言語対応のポータルサイト(UNIVERSALAID.JP)を制作して、その結果を公開するとともに、新型コロナに関する医療や福祉情報をはじめ、長崎在住の外国人が必要としている情報を掲載して運営・管理するという事業を実施しています。プロジェクトは長崎大学の多国籍な先生や学生たちの協力のもとで進めています。
まずは学生たちとアンケートの質問事項を検討の上、12か国語に翻訳。アンケートを依頼するチラシとアンケート用のサイトを作り、約360人から回答を得ることができました。その結果を集計して、英語のレポートと、要点を11か国語に翻訳したレポートをUNIVERSALAID.JPのサイトにアップしました。また、アンケートの回答などをもとに、長崎在住の外国人が求めている情報をリストアップして、それらが掲載されているウェブサイトをピックアップ。WHO、厚生労働省、みんなの外国人ネットワーク、長崎県国際交流協会、長崎県や長崎市の国際関係や生活支援の部署などに連絡を取り、コンテンツの共有とリンク、多言語翻訳、サイトへの掲載許可をもらい、UNIVERSALAID.JPで公開しています。なお、翻訳は長崎大学の留学生グループなどにチェックしてもらっています。
サイトについてプレスリリースを出したところ、西日本新聞と長崎新聞、インドネシアのサイトで紹介されました。Googleアナリティクスによると、現在のユーザーは約490人で、リピーターが約2割になっています。
松尾さんは「外国人の方々に話を聞いてみると、すでにあった外国人向けの情報サイトと比べて、UNIVERSALAID.JPは非常に分かりやすくて使いやすいと評価いただいています。今後は、新型コロナ感染症の情報だけでなく災害情報やゴミの出し方などいろいろな記事を掲載して、サイトを見てくれる人やリピーターを増やしていきたい」と総括しました。
【プレゼン概要4】 フリースクールクレイン・ハーバー「在留外国人親子の日本語習得&不登校支援」
「特定非営利活動法人フリースクールクレイン・ハーバー」理事長の中村尊さん
フリースクールクレイン・ハーバーは長崎で、不登校の子どもたちの支援を17年にわたり行ってきました。「外国人の親を持つ子どもが、日本の学校に行きづらさを感じて不登校になるケースも見てきました」と高村さん。また、同団体では、使わなくなった学生服とランドセルを生活困窮家庭やひとり親家庭に寄付する活動をしており、外国人の子どもに寄付することもありました。
そんな中、新型コロナウイルス感染症の影響で仕事を失ったり就業が困難になったりしている外国人親子を支援しようと、日本語専門学校のあさひ日本語学校と連携して事業に取り組むことにしました。事業の概要は、長崎県内在住の外国人を対象に、就労を目的とした日本語教育をオンラインで無料で行うというもので、必要に応じて子どもにも支援を行います。オンライン授業のため、離島を含めて広い範囲の外国人を支援することが可能です。県内の9市町村の役所や社会福祉業議会などにチラシを配って周知を図り、長崎新聞にも記事が掲載されました。その結果、現在4人にオンラインで授業を行っており、うち1人は実際に仕事に就くことができました。
課題としては、目標の10人になかなか届かないことが挙げられ、「問い合わせをいただいても、対面での授業がいい、夜間に授業してほしい、就業は望んでいないなどと条件が合わなかったケースもあります」とのこと。また、今のところ受講者に子どもがいないため、子どもとつながって支援した事例がないことも課題であり、「これまでとは違う子ども関係の部署や教育委員会に周知するなど、アプローチの方法を工夫していきたい」と高村さん。「コロナ禍でマイノリティの方々にしわ寄せがきている。そのような方に優しい長崎でありたいと思っています。次年度以降については、コロナの状況をみながら、どうやってニーズに対応していくかを考えて、もっと多くの外国人親子に関わっていきたい」と今後に向けての意気込みも話しました。
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次回は「後半・懇談会編」をお届けします。懇談会は、モデレーターに「日経ビジネス編集部シニアエディター 村上 富美さん」をお招きし実施しました。ご期待ください!
資金分配団体 | 公益財団法人佐賀未来創造基金 (コンソーシアム構成団体:一般財団法人未来基金ながさき) |
事業名 | 新型コロナ禍における地域包摂型社会の構築 ~地域で暮らす全ての人の安心と未来をつなぐ~ |
対象地域 | 佐賀県、長崎県 |
実行団体 | ★公益財団法人佐賀県国際交流協会(SPIRA) ★一般社団法人ユニバーサル人材開発研究所 ★NPO法人Treasures of The Planet ★特定非営利活動法人フリースクールクレイン・ハーバー ・九州ケータリング協会 ・佐賀県地域共生ステーション連絡会 ・NPO法人ナガサキリハビリテーションネットワーク ・一般社団法人すまいサポートさが ★:今回の記事で紹介されている団体 |