休眠預金活用事業の事例を紹介 ―「アジア・フィランソロピー会議 2023」JANPIAセッション

休眠預金活用事業の事例を紹介 ―「アジア・フィランソロピー会議 2023」JANPIAセッション

JANPIAは2023年12月1日、日本財団主催の「アジア・フィランソロピー会議 2023」の中で、「多様な「はたらく」、「まなぶ」の意思を尊重、機会創出の実現へ! ~休眠預金活用事業の事例から~」というセッションを企画・発表しました。「アジア・フィランソロピー会議」は、アジア地域におけるフィランソロピー活動に焦点を当てた国際的な会議で、今回のテーマは、 DE&I(多様性、公平性、包括性)。JANPIAのセッションでは、今回のテーマに関わる事業に取り組まれている実行団体の代表者と、休眠預金活用事業の可能性などについて対話しました。


活動概要

2023年12月1日、公益財団法人 日本財団の主催による「アジア・フィランソロピー会議」が、ホテル雅叙園東京にて開催されました。2回目の開催となる今回は、「DE&I(多様性、公平性、包括性)」(※1)をテーマとし、社会課題の解決に取り組む財団をはじめとしたアジアのフィラソロピーセクターのリーダーが一堂に会し、各セッションに分かれ様々な議論が行われました。
同会議のパラレルセッション4にて、JANPIAは、『多様な「はたらく」、「まなぶ」の意思を尊重、機会創出の実現へ!~休眠預金活用事業の事例から~』と題し、休眠預金活用事業の事例を紹介しました。
セッション4の様子は、動画と記事でご覧いただけます。

会場全景写真


※1:「DE&I」は、Diversity(ダイバーシティ、多様性)、Equity(エクイティ、公平性)、Inclusion(インクルージョン、包括性)の頭文字を取った略称。

活動紹介

休眠預金活用事業説明(JANPIA)

マイクを持って説明をする大川

はじめに、JANPIA 事務局長の大川より、休眠預金活用事業の紹介と今回のセッションの説明をしました。
「休眠預金等活用法よりJANPIAが2019年に指定活用団体に選定されて以来、全国で1,000を超える実行団体が休眠預金を活用し、社会課題の解決に取り組んでいます。今回は、その中から、今回の会議のテーマに合った事業に取り組まれている団体の代表者をお招きしました。会場やオンラインの皆様含めて、様々な観点から意見交換できたらと思います。」

▲JANPIA 事務局長 大川
  資料〈PDF〉|休眠預金活用事業説明|JANPIA[外部リンク]

各団体の取り組み

[1]一般社団法人 ローランズプラスの事例紹介

株式会社ローランズ 代表取締役 / 一般社団法人 ローランズプラス 代表理事 福寿 満希氏


福寿:私たちは東京都の原宿をメイン拠点としながら、花や緑のサービスを提供している会社です。特徴的なのは、従業員80名のうち7割の約50名が、障害や難病と向き合いながら働いているということです。私たちは、「排除なく、誰もが花咲く社会を作る」をスローガンとしており、Flower&Green事業、就労継続支援事業、障害者雇用サポート事業の大きく3つの活動を行っています。

マイクを持って話をする福寿氏

▲ローランズプラス 福寿氏

休眠預金活用事業には、過去に3回採択されています。1つ目の「障害者共同雇用の仕組み作り」という事業(2)は、READYFOR株式会社が資金分配団体で、新型コロナウイルス対応緊急支援助成で採択されました。コロナ禍により、障害当事者の方たちの失業率が高まり、特に中小企業での雇用維持が大変でした。1社だけでは雇用が難しいため、例えば10企業でグループを作り、グループ全体で仕事をつくり、雇用を生み出していきましょうという仕組みづくりです。この事業によって30名程の新しい雇用が生まれ、助成終了後の今も、自走してしっかり回っている状態になっています。 


2つ目は、「花を通じた働く人のうつ病予防project」事業(※3)です。資金分配団体は、特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために 様で、花を通してうつ病を予防していくという取り組みです。企業の花を通じたウェルネスプログラムとして、会社から従業員に対して、10分割できる花をプレゼントし、10人に「ありがとう」を伝える機会をプレゼントします。ある調査では、「ありがとう」の言葉は、伝える側の方が幸福度が高くなるというデータが出ています。「ありがとう」の伝えることの重要性を知り、求めるのではなく、自発的にその言葉を伝えていければ、幸福度が高まる機会が増え、結果的にうつ病が予防されていく仕組み作りに挑戦しています。3年間で4千人へアプローチすることを目標に取り組んでいます。


3つ目は、資金分配団体である株式会社トラストバンク 様と取り組んでいる「地域循環型ファームパーク構築」事業(※4)です。神奈川県横須賀市で花の生産と体験型農業(ファームパーク)の運営を行うことで、地域の障害当事者の就労機会を創ることに取り組んでいます。慣れ親しんだ地域に仕事を作り、障害当事者が地元で活き活きと働き、その対価を得ながら地域循環の元で生活をしていけるモデルを作ろうとしています。横須賀地域の福祉団体と連携して、福祉団体から採用していくという流れをとっています。先ずは横須賀で形をつくり、そこから、その他の地域循環モデルが広がっていったら良いなと思い取り組んでいます。

休眠預金を活用した3つの事業のスライド

▲ローランズプラス 福寿氏 当日資料より


※2:2020年度 緊急枠 「ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業」
(資金分配団体:READYFOR株式会社)【関連記事】ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用| ローランズプラス|活動スナップ | 休眠預金活用事業サイト (kyuminyokin.info)


※3:2022年度 通常枠 「植物療法を通じた働く人のうつ病予防プロジェクト」
(資金分配団体:特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために〈イノベーション企画支援事業〉)

※4:2022年度 通常枠 「障がい当事者が活躍できる地域循環型ファームパーク構築事業」
(資金分配団体:株式会社トラストバンク〈ソーシャルビジネス形成支援事業〉)



[2]認定NPO法人 グッド・エイジング・エールズの事例紹介

認定NPO法人 グッド・エイジング・エールズ 代表 松中 権氏


松中:まず「プライドハウス東京」というプロジェクトについてご説明します。まだまだ社会の中にはLGBTQ+※5)の方への差別偏見があり、孤独感を感じている方も少なくありません。そこで、性的マイノリティの方々が横で繋がったり、安心・安全に訪れることができる場所をつくろうという取り組みが、「プライドハウス東京」です。2023年11月現在、31の団体・専門家、32の企業、19の駐⽇各国⼤使館などと連携して取り組んでいます。

マイクを持って話をする松中氏

▲グッド・エイジング・エールズ 松中氏

「プライドハウス東京」設立プロジェクトは、特定非営利活動法人エティックが資金分配団体を務める事業で採択され(※6)、当初は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の時期に合わせて期間限定の場所をつくり、その後、2022年頃に常設の大型のセンターを造ろうという計画でした。


しかし2020年に緊急アンケートを行ったところ、新型コロナウイルス感染拡大の影響でLGBTQ+の若者が大変な状況にあるということが分かってきました。実は、73.1%の方々が、同居人の方との生活に困難を抱えていることが分かりました。また、36.4%LGBTQ+の若者が、コロナ禍でセクシュアリティについて安⼼して話せる相⼿や場所との繋がりを失ってしまったと回答しました。この緊急アンケートによって明らかになった「居場所のニーズ」により、当初の計画を前倒しし、2020年の秋、常設のセンターを開設することになりました。


LGBTQ+に関する様々な調査の中で、政府も調査していることの一つが自殺の事です。政府が自殺対策の指針として定める「自殺総合対策大綱」によると、性的マイノリティはハイリスク層と言われています。そうした方々が、安心・安全に集えるようなコミュニティスペースが、「プライドハウス東京レガシー」です。また、休眠預金を活用した事業が動き出したことによって、「プライドハウス東京」に関する高い信頼が得られ、翌年には厚生労働省の自殺対策(自殺防止対策事業)の交付金を受けることになりました。自殺対策の相談窓口は電話やSNSが多いですが、「プライドハウス東京レガシー」では、対面型の相談サービスを提供しています。202311⽉現在の来館者数は、延べ1万人を超えたというところです。

事例を紹介する松中氏と、スクリーンに映し出されるスライド


※5:LGBTQ+…レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランジェンダー、クエスチョニング(自分の性別や性的指向に疑問を持ったり迷ったりしている人)/ クィア(規範的な性のあり方に違和を感じている人や性的少数者を包摂する言葉)の英語表記の頭文字を並べ、LGBTQだけではない性の多様性を「+」で表現している。

※6:2019年度 通常枠
「日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト」
(資金分配団体:特定非営利活動法人エティック(子どもの未来のための協働促進助成事業))


パネルセッション

続いて、JANPIA 加藤の進行により、パネルセッションが行われました。本セッションでは、お互いの発表に対する意見交換から始まり、続いて今回のテーマである「DE&I(多様性、公平性、包括性)」について、そして最後に、休眠預金活用事業への期待や展望について、登壇者の二人からお話を伺いました。

話をする4名と、2つのスクリーンに映し出される登壇者2名

登壇者:

・株式会社ローランズ 代表取締役 / 一般社団法人ローランズプラス 代表理事 福寿 満希氏
・認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ 代表 松中 権氏

司会:

一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)
企画広報部 広報戦略担当 加藤 剛

登壇者の話に耳を傾ける加藤

▲JANPIA 企画広報部 加藤

休眠預金の活用について、福寿氏は、「やりたかったけれどもやれていない事業や、やったら絶対に意義があると思っているけど、資金的・人的リソースが足りず、なかなか挑戦できない新規の事業で申請することが多かった」「障害者手帳をお持ちではないグレーゾーンの方もいらっしゃったりするので、そのような制度に引っ掛からない方たちにも支援が届けられたらと思った」と語りました。グッド・エイジング・エールズの松中氏は、「一般的な助成だと一番大切な居場所をつくるための家賃や人件費がサポートいただけないことが多かったので、休眠預金を知ったときは、これだったら居場所がつくれるのではないかと思い、申請した。常勤のスタッフが安心して働けるからこそ、新しいプロジェクトや寄付金が集められる」と続けました。また、お互いの活動について、松中氏は、「是非、連携させていただきたいと思った」と、今後の事業連携の可能性について盛り上がりました。

 

今回のテーマ『DE&I~すべての人々が自分の能力を最大限に発揮できる社会を目指して~』について、松中氏は、「LGBTQ+の当事者の若者が、卒業後に働く現場の一つとして、これらのコミュニティに関わるとか、企業のDE&Iに関わる部署への配属を希望できるようになるなど、卒業後にDEIを仕事としていくことが想像できるようになると良いなと考えている」と回答。また、福寿氏は、「障害者手帳もそうだが、名称の括りがあると、何か特別なものように思ってしまいがちなので、たまたま障害当事者のために業務を分かり易くしたところ、結果としてそれが同じ拠点で働くみんなのためにもなったといったように、障害者雇用が特別なものではない社会になったら良いなと思って取り組んでいる」と答えました。

 

また、休眠預金活用事業への期待や展望について、松中氏は、「取り組みの地域格差をどれくらい埋められるかというのが課題だと思っている。例えば、LGBTQ+センターは東京だけではなく、全国各地にあった方が良いと考えるが、地域によっては資金分配団体がなかったり、あったとしても掲げるテーマからなかなか採択に至るのは難しい状況もある。もっと全国各地の団体が参画しやすい仕組みになれば良いなと思う」と話しました。福寿氏は、「通常枠は約3年だが、自走できる仕組みづくりには時間がかかり、形ができてやっと活動を拡げるという手前で事業が終了してしまうので、拡がりが期待できる事業に対しては、ネクストチャレンジのような仕組みがあったら良いなと思う。有難いことに3つの事業で採択していただいており、現在2事業が実施中だが、どれも休眠預金が無ければ挑戦できなかった事業。社会課題の解決を後押ししてくれる制度なので、是非活用する事業者の方が増えていったら嬉しい」と話しました。


最後に、JANPIA 事務局長の大川より挨拶があり、「今日の学びを制度全体の発展にも活かせるよう、私どもJANPIAもしっかり取り組んで参りたい」と、このパネルセッションを締め括りました。

マイクを持って話をする松中氏と、松中氏の話を聞く福寿氏と加藤の様子

登壇者の皆さん

スクリーンの前に立つ4名


左から、JANPIA事務局長 大川・JANPIA 加藤・ローランズ 福寿さん・
グッド・エイジング・エールズ 松中さんです。

【1】事業基礎情報

実行団体
一般社団法人 ローランズプラス
事業名
ウィズコロナ時代の障がい者共同雇用事業
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業
新型コロナウイルス対応緊急支援事業
〈2020年度緊急支援枠〉

【2】事業基礎情報

実行団体
一般社団法人 ローランズプラス
事業名
植物療法を通じた働く人のうつ病予防プロジェクト
-花のチカラでうつ病発症を食い止めるー
活動対象地域東京都
資金分配団体特定非営利活動法人 こどもたちのこどもたちのこどもたちのために
採択助成事業
うつ病予防支援 〜東京で働く人をうつ病にさせない〜
〈2022年度通常枠〉(イノベーション企画支援事業)

【3】事業基礎情報

実行団体
一般社団法人 ローランズプラス
事業名
障がい当事者が活躍できる地域循環型ファームパーク構築事業
ー障がい当事者が地域経済に参画することで、新しい社会包摂モデルを構築するー
活動対象地域神奈川県横須賀市
資金分配団体株式会社トラストバンク
採択助成事業
地域特産品及びサービス開発を通じた、
地域事業者によるソーシャルビジネス形成の支援事業
〈2022年度通常枠(イノベーション企画支援事業)

【4】事業基礎情報

実行団体
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名日本初の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京」設立プロジェクト
-情報・支援を全国へ届ける仕組みを創り、
LGBTQの子ども/若者も安心して
暮らせる未来へー
活動対象地域東京都、及び全国
資金分配団体特定非営利活動法人エティック
採択助成事業
子どもの未来のための協働促進助成事業
ー不条理の連鎖を癒し、皆が共に生きる地域エコシステムの共創ー
〈2019年度通常枠〉

【5】事業基礎情報

実行団体
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
事業名LGBTQ中高齢者の働きがい・生きがい創出
活動対象地域全国
資金分配団体READYFOR株式会社
採択助成事業
新型コロナウィルス対応緊急支援事業
ー子ども・社会的弱者向け包括支援プログラムー
〈2020年度新型コロナウィルス対応緊急支援助成〉

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