災害時に求められる「ネットワーク」とは?
そもそも災害時に「ネットワーク」の形成が求められるようになった背景について、 特定非営利活動法人(NPO法人)全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)のプログラム・オフィサー(PO)である鈴木さんにお話を伺いました。
国内で大きな災害が発生したとき、支援の仕組みはまだまだ確立できていない現状があります。その現状があらわになったのが、2011年の東日本大震災でした。
一口に「民間の支援組織団体」と言っても、普段の活動領域も活動テーマもさまざま。東日本大震災では多様な団体が現場に入ったものの、それらの団体をどこが受け入れて調整するのか明確に決まっておらず、現場で混乱が発生したのです。
そうなると、どこでどのような支援が入っているのかわからず、支援を行う関係者間でも連携を取ることも難しくなりました。このように、災害支援に入る団体は多くあってもその連携が取れていないと、広範囲での効率的な支援が難しくなってしまいます。
そこで立ち上げられたのが、JVOADです。東日本大震災での経験を踏まえて、支援の調整ができる環境を整えた仕組みづくりを目指し、各都道府県での災害支援のネットワーク構築を目指しています。
この「ネットワーク」にはさまざまな関係の構築が必要とされますが、JVOADが特に重視しているのが、主に制度による支援を行う「行政」、災害ボランティアセンターを中心的に運営する「社会福祉協議会」、NPOや企業などが含まれる「民間の支援団体」による「三者連携」です。
JVOADは全国域でこの体制づくりを試みながら、同時に都道府県域でも三者の連携を目指しています。今回ご紹介する実行団体「北の国災害サポートチーム」、「いわて連携復興センター」、「岡山NPOセンター」はそういった都道府県の災害時の中間支援を担う団体として、三者連携をベースに支援関係者同士のネットワーク構築を目指して奔走しているのです。
ここからは、それぞれのエリアの特徴を踏まえてネットワークを構築する3団体と、その3団体のパートナーとして伴走するJVOADについてご紹介します。
北の国災害サポートチーム(きたサポ)
上段左から、北の国災害サポートチームの定森さん、本田さん、下段 篠原さん
北海道における災害中間支援組織、北の国災害サポートチーム(以下、きたサポ)の代表を務める篠原さんと、チームメンバーの本田さん、定森さんにお話を伺いました。
179の市町村があり、小規模自治体が多い北海道。交通網が止まったら外部から救援できなくなる土地柄に対して、NPOが蓄積しているノウハウにもばらつきがあり、災害時にどのようにして組織的支援を送るのかが課題になっていました。
2016年8月、台風第10号による災害が北海道で発生。NPOの中長期支援が動きづらい事態が発生し、これを契機に、全道各地で災害時にNPOが担うべき役割についての意見交換会が実施されました。
道内にNPOのネットワークが少しずつ生まれてきた矢先に、2018年9月、北海道胆振(いぶり)東部地震が発生。しかし2016年から積み重ねてきた活動により、胆振東部地震ではNPO間の連携が可能になりました。このような動きのなかで、これまで取り組んできたことを整理して「北の国災害サポートチーム」を組織したのです。
きたサポは、全道各地にあるNPOの中間支援センターも加盟しています。各エリアの中間支援センターは、エリア内で災害時に連携を取りやすいように行政やNPOと関係を構築しながら、きたサポで道内のネットワーク構築を進める仕組みです。
きたサポが、休眠預金活用事業で、北海道内で災害のリスクが高いと言われる釧路と有珠山周辺地域の2箇所でのネットワーク構築を重点的に行ってきました。意見交換会を開催したり周辺地域の団体と連携を図ったりと、重点地域を絞ったことで休眠預金を活用してきた成果が見られています。
全道域の多様な災害支援の関係者と連携した北海道フォーラムや、企業の協力による技術系研修会なども精力的に開催。
幹事団体がそれぞれ本業を持ち、複数の団体で事務局を組織しているきたサポのスタンスは、それぞれの団体が自主的に考えて動くこと。
どこで災害が起きても、交通網が遮断されればエリアを超えた支援が難しくなる可能性が高い土地柄を踏まえて、「きたサポの活動を通じて培ってきたことを各自で活かす。それでいいと思っています」。
そんな自主性を重視する姿勢は着実に広まり、重点地域である釧路と有珠山での災害シミュレーションに参加した別のエリアの中間支援センターが、自分たちのエリアでもシミュレーションを実施するなど、自発的な取り組みが道内各地に派生していくケースも増えています。
「休眠預金活用事業で手応えを感じているのは、胆振東部地震の記録をまとめたことです(きたサポ報告書「平成30年北海道胆振東部地震 情報共有会議の記録(A4版)」)。完成して嬉しかったですし、今後の活動に展開できる大切なものを作れたと思っています」
きたサポが窓口機能を担うことで、きたサポがなければ蓄積されていなかった情報と関係性がストックされてきた活動3年目。これからも北海道内で被災者支援の拡大ができる仕組みづくりや文化を根付かせるために、活動を続けていきます。
いわて連携復興センター
特定非営利活動法人いわて連携復興センターの瀬川さんと千葉さんには、同センターが事務局を担っている『いわてNPO災害支援ネットワーク(INDS)』の活動についてお話を伺いました。
左からINDSの千葉さん、瀬川さん
いわてNPO災害支援ネットワーク(以下、INDS)が立ち上がったのは、2016年9月。前月に台風
10号が発生し、東日本大震災からの復興途中であった岩手県に大きな傷跡が残されました。
災害支援において、連携と協働の必要性が浮き彫りになった東日本大震災。台風10号の際も、被害が大きかった岩泉町・久慈市・宮古市で災害ボランティアセンターが設置されて熱心な復旧作業が行われたものの、なかなか連携協働まで至らなかったと言います。
「実際はそこまで現場で混乱が生じたわけではないのですが、もっと情報連携できたら役場への問い合わせが一本化されたり、それぞれのNPO団体の得意分野が発揮できる支援をお願いできたりと、より効率的・効果的な支援をできたのではないかなと考えました。広範囲の岩手県をカバーする上で、調整し合うことが重要だと思います」
このような背景から「オール岩手」での取り組みを目指して立ち上げられたのが、いわてNPO災害ネットワークです。県内のさまざまなNPOによって構成され、JVOADと一緒に広域のコーディネートに動くこともあれば現場で泥出しの対応に入ることもあり、被災地に応じた支援に取り組んでいます。
休眠預金活用事業に応募したのは、より安定的な活動を展開する基盤づくりのため。岩手県の広域をカバーしながら県と県の社会福祉協議会と関係構築を進める上で、休眠預金活用事業が単年度ではなく長期的であることがメリットになっていると言います。
「支援活動のための関係構築には、日常のコミュニケーションがすごく重要になってきます。休眠預金活用事業が単年ではなく3年間だからこそ、年度を超えて長期的に会議を設定できたり計画的に研修を実施できたりするのはありがたいですね」
一言に「関係構築」といえど、行政の担当者には異動があり、コロナ禍で直接顔を合わせる機会が格段に減ってしまったため、この取り組みは容易ではありません。それでも県内でINDSの名前が知られるようになったりINDSと連携できる人が増えたりと、着実に変化が見られています。
「JVOADの伴走支援があることで、県内だけでなく県外での災害対応にも参加するようになりました。そこで最新の支援方法を知れたり県外の方々とつながれたりして、岩手に持ち帰れるものがあります。防災には終わりがないので、少しずつ仲間を増やしながら、見える成果を出していきたいです」
岡山NPOセンター
岡山NPOセンターが事務局を担っている『災害支援ネットワークおかやま』の活動について、同法人の詩叶(しかなえ)さんに伺いました。
岡山NPOセンターが掲げるのは「自然治癒力の高いまち」。問題が発生したら協働して解決していける。足りないところを補い合って、問題自体の発生を無くせるような「自然治癒力」を高めることが目標です。
そのため、岡山NPOセンターはNPOだけに限らず、セクターを越えて課題解決や価値創造の取組が生まれ、続いていくようにファシリテートしています。そのなかで2018年に立ち上げたのが「災害支援ネットワークおかやま」です。
2018年7月、「西日本豪雨」と呼ばれる広域に及ぶ被害をもたらした災害が発生しました。岡山NPOセンターは、発災した翌日には岡山県社会福祉協議会、岡山県と話し合い「災害支援ネットワークおかやま」を立ち上げ。ここまで迅速に動けたのは、岡山NPOセンターが平時から、行政、関係支援機関、民間団体、企業と協働で事業を通じて築き上げてきた関係性があったからです。
三者連携が進んできたとはいえ、組織文化か進め方も異なるためにまだまだ難しい行政機関と民間との災害支援に関する連携。災害支援ネットワークおかやまは平時の備えからの関係性の構築や継続を目指しています。
詩叶さんが理想的な関係を築けているケースのひとつとして挙げたのが、倉敷市一般廃棄物対策課との協働です。倉敷市の災害廃棄物の対策マニュアルの作成に参加して、訓練にも参加しましています。このようなマニュアル作成にNPOが参加したのは全国で初めてのケースだと言います。
「このような関係をどの市町村とも築けると、いつどのように発災しても、私たちから団体や企業をつなげますし、市町村も支援を受け入れられるんですよね。災害を平時の地域づくりから切り離さずに、常に地域を多面的に接続していくことが重要だと思います」
詩叶さんは休眠預金活用に参加してよかったことのひとつとして、通常の補助金では予算がつかないところにも予算をつけられる点を挙げられました。
「例えば水害時の復旧ロードマップは、デザイナーと編集者がいるからこそ、被災された住民の方に見て理解してもらえるものが完成しました。通常の助成金だと、そのように災害にデザインを持ち込むことが予算として認められないんですよね。でも休眠預金活用事業では予算として活用させていただけるので、その柔軟さがありがたいです」
左が岡山NPOセンターに伴走するJVOADの鈴木さん、右が岡山NPOセンターの詩叶さん。災害支援ネットワークおかやまが作成した「復旧ロードマップ」とともに。
普段からさまざまな部会をつくって話し合いをし、コミュニケーションを通じてアウトプットを決めている災害支援ネットワークおかやま。西日本豪雨の経験だけでなく、全国の災害中間支援組織とも連携しながら、常にアップデートした災害対応を県内外に伝えています。
全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)
左上がJVOADの明城さん、右上が小竹さん、左下が鈴木さん、右下が古越さん
ここまでご紹介してきた3団体の資金分配団体でありパートナーとして伴走を続けるのが、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)です。JVOADの鈴木さん、明城さん、小竹(しの)さん、古越さんにお話を伺いました。
JVOADは「行政」、「社会福祉協議会」、「民間の支援団体」のによる災害支援のネットワーク構築のモデル化を目指しながら、全国域の災害中間支援組織と連携して情報共有を図っています。
「災害の文脈で『中間支援組織』について行政から語られるようになったのは、2018年の西日本豪雨の頃からです。それでも『中間支援組織』とは何なのか、どこまで何をやるのか定義されていないため、手探りで進めています。各地の災害に関する中間支援組織が目指すイメージもさまざまなので、まずは休眠預金を活用されている3道県と一緒に、目指すあり方を積み上げているところです」
JVOADは全国域の災害中間支援組織であり、先の3団体は県域の災害中間支援組織であるため、対応する範囲は違えど、同じ課題意識を持っているパートナー。
3団体が休眠預金活用事業を終えるのは、2023年3月。残り半年の活動期間で、3団体が積み重ねてきた活動を可視化したいと考えています。
「モデルとなる中核的災害支援ネットワークを確立し、三者連携の必要な要素を可視化することを休眠預金活用事業では目指しているので、3団体の皆さんが取り組んでこられたことをまとめていきたいと思います。災害中間支援組織の活動内容をできるだけわかりやすく伝えることで、この活動を他の地域へも展開したいと思っていただけるように橋渡ししたいです」
ゆくゆくは、全国47都道府県に災害中間支援組織がある状態を目指しているJVOAD。各地域で始まっている動きをサポートできるよう取り組んでいきたいです。
取材・執筆:菊池百合子
【事業基礎情報】
資金分配団体 | 特定非営利活動法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD) |
助成事業 | 中核的災害支援ネットワーク構築 〜大規模災害に備え、ネットワーキングから始まる地域の支援力強化〜 〈2019年度通常枠〉 |
活動対象地域 | 全国 |
実行団体 | ★北の国災害サポートチーム |