■プログラム・オフィサーとは?
休眠預金活用制度の特徴の一つとして、資金分配団体が資金的な支援だけでなく、実行団体の運営や活動をサポートする「非資金的支援」(伴走支援)があります。その中心的役割を担うのがプログラム・オフィサー(以下、PO)です。通常枠(最長3年事業)で採択される資金分配団体においてはPOを雇用した場合などに、その確保育成や活動に関する経費も助成しています。現在、2019年度・2020年度事業合わせて137名のPOが登録されています。
JANPIAでは、PO研修等、JANPIA 主催の研修プログラムなどを実施 してPOの担い手を育てることとしており、今回の研修はその一環で行いました。
■「非資金的支援の勉強会」の研修内容のご紹介
2019年度採択の資金分配団体にとっては「中間評価」を見据えて、2020年度採択の団体にとっては選定された実行団体への伴走支援を考える材料として、非資金的支援について集中的に学ぶため、2名の講師による講義の後、グループに分かれての感想共有や全体での質疑応答の時間がありました。
まず、東洋大学社会学科教授の米原あき講師からは、「非資金的支援を促進するための評価と指標の考え方」について説明しました。
評価(Evaluation)という言葉が、価値(value)を引き出す(extract)という言葉から来ていることから、たこ焼きにどういった価値があるのかという例え話から始まり、実際の資金分配団体の非資金的支援のアウトカムやその指標を見ながら、参加者の参考になる改善ポイントを確認しました。
評価指標を立てる際の考え方に関しては、「『追いかけたくなる指標』という発想が大切」と話す米原講師。多くの参加者の印象にも残ったようです。また、目標に関しては、初期値の確認やその増減だけでなく、「ある状況の維持や変化の仕方に注目すべき場合もある」と伝えられました。
「休眠預金活用の制度は、日本のフィランソロピーを、フィランソロピー1.5からフィランソロピー3.0に進める大きなきっかけになる」と話すのは、多摩大学社会的投資研究所 主任研究員の小林立明講師。
グローバルなフィランソロピーの発展段階における、日本の休眠預金制度の位置づけを踏まえたうえで、多摩大学社会的投資研究所が受託を受けて実施した業務から見えてきた、資金分配団体の非資金的支援計画の分析結果について解説いただきました。
非資金的支援のアウトカム設定について、6類型(組織基盤構築、評価、事業運営、資金調達、ネットワーク形成、普及・啓発)に区分した上で、2019年度採択の資金分配団体がどのようなアウトカム類型を選択したかを調査したところ、2項目以上のアウトカムを設定した団体が多かったとのこと。一定の評価をしつつも、制度の趣旨に照らせば「組織基盤構築やネットワーク形成はもっと進めていってほしい」と期待されていました。
その後のグループワークや全体ディスカッションでは、各POの感想共有や、事業を実施するうえでの悩みなどの共有があり、採択された年度を超えての交流が見受けられました。
2020年度に採択された資金分配団体のあるPOは、実行団体から「指標を設定することで数字に縛られる。達成できなかったらマイナス評価になるのではないか。」という不安を打ち明けられた際に戸惑いを感じていました。それに対して2019年度採択団体のPOは「団体が目指す方向性と合致していれば大丈夫。」とアドバイス。講義をきっかけにした年度を超えての交流は、日々のPO活動に気づき与える場にもなったようです。
米原講師も「評価や指標は活動をしばるものではなく、改善のために活用するもの」と強調。また、米原講師も小林講師も、アウトカムや指標を設定する際は、団体が目指すビジョンからバックキャスティング(未来からの逆算)することが大事であると声をそろえて話されていました。
講師プロフィール:
〇 米原 あき 氏 東洋大学 社会学部 教授 専門社会調査士 比較教育政策学、国際協力論、人間開発論、またこれらの分野に関わる政策評価を専門分野とする。また、JICAの評価専門家や行政の政策評価委員を務めるなど、多くの実務実績がある。主要著書に、”Human development policy in the global era”(単著)、「プログラム評価ハンドブック」(共著)等がある。 |
〇 小林 立明 氏 多摩大学 社会的投資研究所 主任研究員 ソーシャル・ファイナンスを専門とされており、そのほかにも、戦略的グラント・メイキング、社会的インパクト評価、NPOマネジメント等、国内外問わずソーシャルの分野を中心に深く研究をされている。主要著書に、「フィランソロピーのニューフロンティア」(翻訳)、「英国チャリティ:その変容と日本への示唆」(共著)、「入門ソーシャルセクター」(共著)等がある。 |